知的財産権ビジネス戦略 第7章第1節

7-1. 映像と音が産業のあり方を変える


VRが活動の概念を変える 拡大する映像、音楽サービスと地域振興

VRが活動の概念を変える

 CSCW(Computer Supported Co-operative Work)という、今後発展が期待される研究テーマがある。同じオフィス内にいても、遠隔地にいてもよいのだが、複数の人が、コンピュータに支援してもらうことにより、共同作業を迅速、正確、効率的に進めるための概念や手法を考えるという学問分野である。テレビ会議、バーチャルリアリティ(VR、仮想現実感)、可視シミュレーション、ホワイトボード共有、電子メール、グループウェアなどが技術要素のキーとなっている。

 京都府精華町のATR知能映像通信研究所では、現実感通信と呼ぶ技術を開発した。大型スクリーンに遠隔地の会議出席者の画像が映し出される。これにより、出張をすることなく、各地のメンバーが仮想的に集まって会議ができる。

 バーチャルリアリティの技術を、設計や操作演習などに応用すれば、シミュレータになる。東京商船大には、操船プログラムと呼ぶシミュレータがある。5台のプロジェクタを用い、窓の外に225度の視野で東京湾の姿を映し出す。正面から来る波、横波、昼夜、霧の濃さなども、各種調節して再現できる。

 東大工学部では97年3月、洞窟型スクリーンを設けた。「ケイブ」と呼ばれ、新しい研究棟に設置される。1辺が3mの立方体がスクリーンになっており、その中にヘッドマウントの装置を着けて入り込む。ユーザーの移動の状況に合わせてスクリーン表示の内容が時々刻々と変わる。四方八方がスクリーンになっていて、その仮想空間に没入した感じになるのが、ヘッドマウントディスプレイを使うタイプと違う点だ。

 映画監督のスピルバーグ氏は、他の2氏と共同で、ドリームワークスというCG関連プロダクションを旗揚げした。スピルバーグ氏のボランティア活動の一つに、病院の子供たちの仮想外出がある。バーチャルリアリティを利用することにより、屋内あるいは無菌室からまったく出られない子供たちに、外界を疑似体験させたり、遠隔地の同様の子供たちと仮想空間を共有させたりする。

 一生無菌室から出られないというケースは珍しいにしても、外界との接触の渇望が大きいにもかかわらず、それをかなえるなど望むべくもない入院患者が現在、数多く存在する。マルチメディア技術による仮想外出は、その壁を打ち破る可能性を秘める。

拡大する映像、音楽サービスと地域振興

 東京・新宿の高島屋タイムズスクエアビルに、96年10月、3次元の大型映像シアター「東京アイマックスシアター」がオープンした。右左が交互に開閉するコードレスの液晶シャッターメガネを用い、右目と左目にほんの少しずれた画像が映すことで、立体的に見せる。

 日本総合研究所は、仮想音楽ホールを設置し、クラシックコンサートのライブ中継を96年に3回実施した。

 北海道新冠町では、CDの普及で消えつつあるレコードを収集、保管し、データベース化しようとしている。新冠町が町づくりの拠点にしようとしているのは「レ・コード館」で、高さ36メートルの展望タワーをいただいた円盤型の建物である。97年6月に開館する。

 合計100万枚を目指しているが、96年11月25日現在で、全国1131人から31万4809枚が集まっている。このうち、4万4500枚、約28万曲がデータベースに入力されている。音楽分野、曲名、作詞者、作曲者、アーティスト、楽団など15項目で検索できるようにしている。入力済みのデータは、87年に町が開設したパソコン通信局「判官ネット」で、発信している。

 コンピュータアーティストの安斎利洋氏、中村理恵子氏らは、「連画師」と名乗っている。短歌をつないでいく連歌のように、前の人がコンピュータグラフィックスで描いた絵を電子メールで受け取り、筆を加えて新たな作品にしてさらに送っていく。


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